Dainese
Dainese
📷
Loading image...
ストーリーズ

ニー・スライダーの進化史|ケニー・ロバーツからシュワンツまで、その誕生と完成形

公開日:2026年2月7日
執筆者:ダイネーゼAGVジャパン編集部

スライダーはいまやスーツに欠かせない存在。サーキット走行とリーンを象徴する装備

1970年代末、“火星人”ロバーツが、誰も見たことのない深いリーンを生む新しいライディングスタイルを生み出した

アスファルトで膝を擦るようになり、バイザーをスーツに貼るといった手作りの工夫が生まれた

“istrice(イストリーチェ)”は最初の本格的なスライダーで、1981年にGPデビューを果たした

形状と素材は、パフォーマンス追求の中で進化していった

1990年代を通じた試行錯誤が、現在のレーシングスライダーへとつながった

ニー・スライダーは、イタリアでは一般に「石けん」と呼ばれ、レザースーツに欠かせない装備です。初めてサーキットを走るアマチュアにとって、傷だらけのスライダーは「最高の一日だった」証しでもあります。
一方でエキスパートにとっては、数ある装備の一つとして、半ば当たり前の存在でありながら、確実にパフォーマンスを支える要素です。いまでは、ライダーが膝をアスファルトや縁石に当てながらリーンする光景は珍しくありません。しかし50年前はまったく違いました。あの角度は考えられず、膝が地面に触れるほど近づくこと自体が、人気週刊誌の表紙を飾るほどの出来事だったのです。

1978年、カリフォルニアのパスポートを持つ“火星人”が、ロードレース世界選手権に現れました。名はケニー・ロバーツ。彼はグランプリ用スーツの設計を一変させる、新しいライディングスタイルを携えてやって来たのです。
誰よりも深くバイクを倒し、トラックとの第三の接点を必要としていました。膝を地面につけてコーナーを曲がるという走りを、常態化させた最初のライダーでした。このスタイルは瞬く間にトレンドとなり、流れは決定的になりました。誰もが“キング・ケニー”と、彼の黒と黄色のマシンを真似し始めたのです。

ケニー・ロバーツが深いリーンで走る歴史的な写真

新たに生まれた必要性

もはや皮膚だけでは対応できませんでした。アスファルトの摩擦に耐えられず、滑りもしなかったのです。代替手段が必要となり、誰かが使い古しのバイザーを思いつきました。
それを好みの形に成形し、スーツにテープで固定することで、膝を地面に預けて滑らせ、ライダーはコーナー速度に集中できるようになりました。この発想はライダー自身から生まれ、レースウイークエンドの最中に手作りで試されたものですが、そこには明確なニーズの兆しがありました。

やがてスーツメーカーが動き出し、ライダーが新しい走り方を最大限に活かせるよう支援しました。こうして、最初の原始的なニー・スライダーが誕生します。
その後10年にわたって改良と進化が重ねられ、現在の形へと近づいていきました。Daineseは1981年、特徴的な形状から名付けられた「istrice(ヤマアラシ)」を発表します。これは、膝が曲がると土台からプラスチック製の円柱が突き出す構造でした。しかし実用性には乏しく、使用後の交換も容易ではありませんでした。
istriceを内蔵したスーツは現存数が非常に少なく、その一つが5度の世界チャンピオン、トニー・マングのものです。現在はヴィチェンツァのDainese Archivioに保管されています。

パフォーマンスを求めて

進化の第2段階は、その数年後に訪れました。形状は現在のものに近づきましたが、素材は異なっていました。レザー製で楕円形、先代よりも頑丈でしたが、アスファルト上で十分に滑らないという欠点がありました。
一方で、ベルクロ固定が採用され、必要に応じて素早く交換できるようになった点は大きな進歩でした。

次に登場した第3世代は、楕円形を保ちながら素材を再びプラスチックに戻しました。1986年のことです。まだ決定版とは言えませんでしたが、すでに当時の最先端に近づいていました。
現在のスライダーが登場したのは1990年代初頭です。前モデルに似ていながら、構成とプロファイルが改良され、角ばった形状ではなく丸みを帯びたものになりました。この現代的なスライダーを初期に採用したスーツの一部は、1993年からDaineseライダーとなり、同年に500ccクラスの王者となったケビン・シュワンツのものでした。

ケビン・シュワンツのレーシングスーツとニー・スライダー

終わりなき実験

Daineseは1990年代末から2000年代初頭にかけても実験を続けました。まず二層構造のスライダーを投入し、その後はクイックカップリング式の着脱機構を備えたモデルを開発します。
これらの最終仕様は、カール・フォガティ、トロイ・ベイリス、加藤大治郎といったトップライダーによってテストされ、実戦投入されました。しかし、求められていた挙動とは異なり、滑るよりもアスファルトに“噛み付く”傾向がありました。その結果、革新とは限らないという判断のもと、従来路線へと戻ることになります。
同時に、ライダーのニーズに応じてスライダーを多様化する取り組みも進められました。最も象徴的なのが「レイン」スライダーで、リーン角が浅くても接地できるよう厚みが増しています。その後には、より耐久性の高い素材を用いたHigh Durabilityスライダーが登場しました。

1978年にカリフォルニア出身のケニー・ロバーツが登場して以来、レーシングスーツの設計は劇的な変化を遂げました。アスファルト上で膝を滑らせるための専用要素が生まれたことこそが、モーターサイクルウェア革命の出発点でした。
人体を守る手段として「滑らせる」という発想は、スライダーから始まり、金属製のショルダープレートやニープレートといった形へと広がっていきます。これらもニー・スライダーと同様、特定の部位が地面に引っかかるのを防ぎ、手足が危険にねじれるのを防ぐためにアスファルト上を滑ります。
肘用スライダーが登場したのは2010年以降ですが、実は1990年代の時点で、250ccクラスの一部ライダーは前腕が地面に危険なほど近づいて走っていたことは、あまり知られていません。

ダイネーゼAGVジャパン編集部のアバター

ダイネーゼAGVジャパン編集部

ダイネーゼAGVジャパン編集部は、イタリア発のモーターサイクルウェアブランド「Dainese(ダイネーゼ)」およびヘルメットブランド「AGV(エージーブイ)」の日本正規輸入元として、製品情報・アスリートのインタビュー・ブランドの今を発信する編集チーム。 ビギナーからエキスパートまで、ライダーの安全性を最優先にした情報提供を行っています。

2026年2月7日公開
ブログ記事

最新記事

読み込み中...
読み込み中...
読み込み中...
読み込み中...
読み込み中...
読み込み中...